コロナウィルス騒動顛末記 日本学術会議考察
渡瀬 裕哉
リバタリアン・マインド
学問の自由を守るために日本学術会議を完全民営化する方法
<日本学術会議の運営等に関して、学問の自由を完全に守る前提での組織改革を提言する......>
菅内閣が日本学術会議が推薦した会員のうち一部の人々の任命を拒否したことが物議を醸している。今回の記事では、日本学術会議の運営等に関して、学問の自由を完全に守る前提での組織改革を提言する。
まず日本学術会議国際協力常置委員会自らが行った「各国アカデミー等調査報告書」(2003年)に基づいて、各国のアカデミーの状況に大きな変化はないものと仮定し、その内容を参照していく。
<各国アカデミー等調査報告書からの抜粋>
〇根拠法令
欧米、アジアを問わず、諸外国の殆どのアカデミーは、その設置の根拠として、王室勅令、大統領勅令、大臣令、議会令、法令、定款など、勅令・法令に基づく設立の根拠を持つ。これにより、アカデミーは国家学術界の最高の地位に位置付けされ、十分な敬意をもって遇されている。
〇政府・非政府の別
全米科学アカデミーが独立民間非営利組織であるのを始め、欧米各国の代表アカデミーは、ほぼ全てが非営利団体・法人などの非政府組織である。これとは対照的に、日本を含めたアジア諸国のアカデミーの大半は政府機関の中に位置付けられている。
〇公務員・民間人
会員の身分は日本学術会議会員は公務員(特別職非常勤国家公務員)の身分を持つのに対し、非政府組織である諸外国アカデミー会員は当然ながら民間人としての参加となっている。
〇報酬の有無
ほぼ全ての国のアカデミー会員は無報酬で活動を行っている。全米アカデミーズ、米国社会科学研究会議、ハンガリー科学アカデミーなど、一部の機関では会長に報酬を与えている。これに対し、日本学術会議は国立大学教授等の国家公務員以外の会員に対し若干の報酬を支給している。
〇科学者一人当たり会員数
国内の全科学者数約 73 万人に対する会員の割合(3,500 人に1人の割合)で比較した場合、これは他の先進諸国の例、米国(220 人に1人の割合)、英国(80 人に1人の割合)、フランス(820 人に1人の割合)、ドイツ(210 人に1人の割合)、イタリア(420 人に1人の割合)、カナダ(50 人に1人の割合)、スウェーデン(100 人に1人の割合)に較べ、非常に少ない。
〇会員の選出
会員の選出方法に関して、日本学術会議は既存の学会・研究団体から選出されるのに対し、各国アカデミーは、ほぼ全ての機関において、そのアカデミー内の会員により推薦・選出される方式(co-optation)を採用している。これは、アカデミー会員は学術上高い評価を得た者で構成されているべきであり、会員選出の判断はアカデミー会員のみによって可能であるという考え方に基づくと理解できる。他機関からの寄与を排除することにより、アカデミーとしての独立性・中立性を保ちつつ、社会に対しての自己責任を負うことで、ひいては社会からの信用性を高めることにもなろう。勿論、いかなる選出方法においてもその透明性を確保することは欠かせない。
以上のように本報告書内容は実に面白い。そして、欧米各国と比べると、日本学術会議の本当の問題は明らかだと思う。(現状では推薦方法はco-optationに変更されているが・・・)
政府によるアカデミーの運営を行う必要はない!
日本は先進国としてアジアの後発諸国のような政府によるアカデミーの運営を行う必要はないということだ。政府から財政的にも独立することによって、政府から干渉を受けることなく学問の自由が一層担保されることは議論の余地はない。そして、現状の日本学術会議のように、政府に財政的に依存、会員の身分が公務員扱い、という体制は、政府による学問の自由に対する介入の余地を潜在的に残した体制と言える。
では、完全民営化した場合の財源措置はどうるべきなのか。現在、日本学術会議に割り当てられる毎年の政府予算は10億5000万円、その使途の内訳は、会員の人件費などを含む提言2億5000万円、国際活動2億円、科学の役割の普及啓発1000万円、科学者間のネットワーク構築1000万円、事務局人件費・事務費5億5000万円となっている。
仮に日本学術会議が完全に政府から財政的・身分的に独立したアカデミーに生まれ変わるとしよう。日本学術会議の運営経費を現在の210名の会員で賄う場合、会員一人当たり年間500万円の会費を負担する必要が生じる。これは現実的とは言えないだろう。
したがって、資金面での現実性を担保するため、欧米のように日本学術会議の会員を科学者数百人に1人の体制まで拡充することが想定される。たとえば、米国並みの比率(約16倍)にした場合、会員1人あたりの負担は年間30万程度だ。日本を代表する科学者であればその程度の金額を負担することは問題ないだろう。まして、諸外国のように報酬を廃止して手弁当にすればその金額を更に半額程度まで引き下げることもできる。
さらに、会員の門戸を拡大することは、多くの科学者が社会的に権威を得て提言を出す機会を担保することにも繋がる。会員人数が拡大することによって一部の身内だけの議論で会員が選ばれる弊害を防止し、より多角的な視座から会員の推薦が行われるようにもなるだろう。もちろん、任命は推薦理由を吟味した上で、日本学術会議自身が行えば良いだけだ。
会員の会費で独立採算で運営することを前提とした民間組織として
筆者は日本学術会議の会員がどのような政治的主張を有していても良いと思う。しかし、それは政府から財政的・身分的に独立した状態で行われることが望ましい。日本学術会議は210名と会員人数を極めて少数に限定している現行法を廃止し、会員の会費によって独立採算で運営することを前提とした民間組織として再出発するべきだ。
現在、政府と日本学術会議側で揉めている不毛な推薦・任命の論争は、誰もが説明責任を取らなくても済んでしまう「税金という他人のカネ」で運営される組織運営において必然的に生じる帰結でしかない。日本学術会議の会員も自分たちのカネで運営する組織となれば「お手盛りの会員推薦」は難しくなるし、まして政府側が会員任命に対して政治的意図を働かせる大義名分が無くなる。
現在の一部の特権階級の人々が政府と持ちつ持たれつ運営する組織の在り方を改め、自主独立の運営組織として広く科学者の参加を受け入れるだけで、学問の自由は守られた上に、現在の推薦・任命問題の再発が防止されることになる。本臨時国会で日本学術会議の完全民営化のための法改正を行うことが望まれる。
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